福井県の土地取引件数に関する考察(その2)

1.県全体の土地取引件数 福井県の土地取引件数に関する最近の状況である。 平成24年のピークから平成27年に一旦ボトムとなったが、平成29年にかけて増勢に転じており、ここ10年間としては最大の取引件数となっている。 その要因としては、マクロ的にはアベノミクスによる潤沢な不動産市場への通貨供給が続いていること、ミクロ的には新幹線用地買収のピークを迎えた期間であること等があげられる。 2.県全体と福井市の取引件数 県全体は平成27年以降2年連続増加しているのに対して、福井市は平成28年は増加したものの平成29年には減少に転じている。 様々な要因が影響していると思われるが、一つ言えることは公共事業による土地取得の要素を除外するならば、民間の不動産投資が減少していることが考えられる。 3.主要市の取引件数 県内主要4市はいずれも大幅に増加している。 特に越前市が前年度比86.9%の増加となっており、次いで敦賀市の35.0%、鯖江市の22.5%、坂井市の11.0%となっている。 越前市に関しては各種公共事業用地の取得や立地企業の生産活動の好循環に伴う土地取得等の要因が考えられる。 4.奥越と嶺南の取引件数 (1)奥越2市の取引件数 大野市は平成27年をピークとして、漸次減少を続けている。中部縦貫自動車道の用地買収の要素があっての減少であり、深刻な状況といえる。勝山市は、ベースとしての取引件数が大野市の3分の1程度ではあるものの、ここ3年間は着実に上昇しており、特に平成29年は前年度比35.9%と大幅な上昇となっている。 (2)嶺南4町の取引件数 高浜町が増加傾向を何とか維持していることを除くと全て減少している。特に、おおい町は前年度比66.0%の減少で、若桜町の36.4%減少、美浜町の21.3%減少、高浜町の6.7%減少となっている。 美浜町に関しては、敦賀市に隣接していることのはみ出し需要(敦賀市通勤者の住宅用地)が相当減少していることが伺える。

福井県の土地取引件数に関する考察(その1)

国土交通省の土地総合情報ライブラリーには、不動産に関する有益な情報が多く掲載されており、その中でも注目されるのは都道府県別に集計された土地の取引件数である。 これは、土地取引規制基礎調査概況調査といい、全国の市区町村を対象に、土地取引動向の概況を把握するための調査で、登記情報に基づき、毎年1月から12月の間に全国で取引された土地の総件数や総面積の動向を把握している。 1.福井県全体の土地取引件数   福井県全体の土地取引件数は平成18年をピークに減少しており、平成22年で底を打ったかに思われたが、平成23年はさらに減少した。   平成18年のピーク時はいわゆるミニバブルの後半期に当たり、平成20年9月のリーマンショックを迎える前から件数は大きく減少していることが明らかである。   平成18年から平成19年までの件数減少と平成20年から21年までの件数減少とでは、前者が上回っており、リーマンショックを迎える1年以上前から不動産市場は変調を来たしていたことが伺える。    (※)下記表中の数値で赤字のものは、市町村合併前の数字を集計していることを意味している。  2.福井市の土地取引件数  福井市の土地取引件数は、概ね福井県全体と概ね同じ動向を示しているが、増加及び減少の幅は相対的に福井市が小さくなっている。  また、福井県全体は減少傾向が継続しているのに対して、福井市は平成21年を底に毎年若干の増加傾向で推移している。   

更新料に関して相次ぐ最高裁判例

1.判決の概要 本年7月15日最高裁第2小法廷において、更新料に関する判決が出された。  第1審の京都地裁、第2審の大阪高裁では、いずれも更新料は消費者契約法第10条に反して無効である旨判示され、画期的な判決として注目を集めており、その他でも下級審では無効とする判決が相次いでいた。 ところが、上記最高裁判決は、従来の流れを真っ向から否定した。 (1)更新料の意義  「更新料は,期間が満了し,賃貸借契約を更新する際に,賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは,賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情,更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し,具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和58年(オ)第1289号同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照),更新料は,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。 (2)更新料の法的適合性  「更新料条項についてみると,更新料が,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するところであり,更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また,一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや,従前,裁判上の和解手続等においても,更新料条項は公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると,更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。そうすると,賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。  (3)上記解釈の本件への適用   これを本件についてみると,前記認定事実によれば,本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ,その内容は,更新料の額を賃料の2か月分とし,本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって,上記特段の事情が存するとはいえず,これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。また,これまで説示したところによれば,本件条項を,借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。 2.今後の賃貸借契約に及ぼす影響  京都における更新料の慣行は全国でも最悪といわれており、同じ関西の大阪の人から見ても京都は家賃も高いし、更新料の取り方が異常と言われていることを最高裁の判事の方々はどこまで理解していたのであろうか。 1年間で家賃の2か月分の更新料ということは、京都は1年が14ヵ月あるということであり、更新料がない場合と比較して1カ月当たり約16.7%も家賃が高いということである。 例えば、関東圏(東京)であれば更新料は2年間で月額賃料の1カ月分程度であり、更新料がない場合と比較すると1カ月当たり約4.2%高いだけである。また、不動産業者によっては更新手数料ということで家賃の半月分程度未満しか取らない場合もある。 この背景には京都の賃貸物件を取り巻く特殊な市場環境が色濃く反映していると言われている。それは京都の大学(短大・専門学校等を含む)の多さであり、毎年3月には膨大な賃貸需要が極めて短期間のうちに発生し、圧倒的な貸し手市場と化してしまい、大学に通うために直ぐに決めなければならない新入生とその家族は止む無く貸し手の言いなりに契約を締結させられているのである。 そういった特殊な状況の中で一筋の光明が見えたのが平成21年9月25日の京都地裁での判決であり、あの判決によりその翌月から更新料を取り交わしていた既存の物件にまで更新料の減額が及んだことを見ても、貸し手側が賃料を取り過ぎていたことに対して引け目を感じていたことの裏返しの反応に見えるのは私だけであろうか。 1年で2ヶ月の更新料が特段の事情があるとはいえないという国民目線(庶民感覚)からあまりにも乖離した今回の判決、その今後に及ぼす影響は大きいといわざるを得ないが、不動産市場とそれを取り巻く環境も時々刻々変化しており、今回の判決の賞味期限は意外と早めに訪れるかもしれない。    

東日本大震災を考える(鑑定士からの視点)その1

東日本大震災から早くも1カ月が経過しました。この間度重なる余震活動に耐えながら被災地の方々は懸命に立ち上がろうとされていることに心より敬意とエールを送りたいと思います。 この度の地殻変動が引き起こした影響は国民経済に計り知れない影響を与えており、今後も与え続けると思われますが、不動産の経済価値にどのような影響を与えていくのか考えずにはおれません。 今この時期にコメントすることが不適切の謗りを受けるかもしれませんが、様々な角度から検討してみたいと思います。 (1)建物の耐震性の問題   一度でも震度5以上の強い地震を経験した建物とそうでない建物が同じ強度を保てるのかという問題があります。   東京都区部でも震度5強を観測したわけですが、古いビルであれ新しいビルであれ、外見上何も変らなくても建物は相当なダメージを受けているのではないかと思われます。   そうなると設計上の耐震強度を引続き維持できているかどうかという検証を行う必要はないのか、行わない場合に震度5強の地震を経験した建物について、全く地震の影響がないという前提で捉えて良いのかということに対して、国、特に国土交通省及び建設業界は応える必要があるのではないでしょうか。 (2)岩手・仙台・福島の地盤にズレが生じたエリアの建物の再建築について 牡鹿半島で東南東に5.3m程度移動し、約1.2m沈下しており、東北の太平洋沿岸はいずれの場所も多少の差はあれメートル単位で土地が移動しています。 今後の復興のなかで、各種建物の再建築を行っていくうえで、どこに建て直すかという点について、相当な調査と整理が必要と思われます。 移動したのが一部のエリアではなく日本列島そのものが移動しているので、既存の境界標がベースとなってくると思われますが、各種交通インフラの再建設の過程において、仮に元通りの場所に道路・鉄道・水路等を復元したとしても元々あった土地に収まるという保証はありません。 何故なら、今後の安全性を考慮して、道路を拡幅したり、通る位置をずらしたりということが現実には起きてくるからです。 また、今回の震災と津波で壊滅的な被害にあった地区は大体的な都市計画により再開発が進むものと思われるが、被害が壊滅的でなく家屋が全半壊程度で残った地区は被災者の思い出が残っており、直ぐの取壊して撤去することが困難な状況にあります。 今後ともさらにこのテーマについては、逐次コメントを追加してまいります。