留置権の法的効果について

民事留置権とは,物の留置を認めることによって,その物の返還を求めようとする債務者を間接的に強制して債務の弁済を担保するものである。

問題となるのは不動産を売買した場合に新たに所有権を取得した第三者が被担保債権の支払義務を負うとすると取引の安全に重大な影響を与えることになる。

従来の判例は、裁判所の民事執行手続(いわゆる競売手続)において買受人が留置権の被担保債権の支払義務を負うとするものと負わないとするものに分かれていた。

留置権には、公示性がないこと、発生時期の制約がないこと、競売手続において当該被担保債権額が控除されるとは限らないこと、場合によっては売却価額を超える被担保債権の支払義務が発生する場合があること等から買受人に支払義務まで認めるかどうか裁判で争われてきた経緯がある。

平成20年2月26日の横浜地裁川﨑支部の判決(平成17年(ワ)640号によると、明確に裁判所の民事執行手続(いわゆる競売手続)において買受人が留置権の被担保債権の支払義務を負わないとした。

本判決は,民事執行法59条4項の解釈について,具体的に説示している点で評価できるものと思料する。

判決要旨の中で、「手続法である民事執行法によって留置権の効力の内容に根本的な影響を与えることは妥当でないことを主な理由として,民事執行法59条4項にいう「弁済する責めに任ずる」とは,留置権者が買受人に対して留置物の引渡しを拒絶し得ることを規定したにすぎず,買受人が留置権の被担保債権の支払義務を負うことまで規定したものではないと解し,原告の請求はこの点からも理由がない旨判断した。」

裁判例(留置権)