借地借家法による賃料増減額請求権とは

 土地の地代や建物の家賃について契約当事者で話し合いが付かない場合に借主・貸主双方から請求し得る権利として規定されている。最終的に賃料が何らかの方法(話合い・調停・訴訟等)で解決するまでに、貸主が賃料を受け取らない場合に法務局に現状の賃料を供託することが出来るよう制度としての担保もなされているが、一般にはなかなか理解が難しい制度の一つである。

 1.増減額請求権の発生要件

  既定の賃料を増減するので、当事者間において過去に賃料の取り決めのあることを必要とする。

  既定の賃料が経済変動の影響を受けて不相当となり、当事者間に増減額請求権が発生する要件は次のとおりである。

 (1)賃料決定時より相当の期間が経過していること

   賃貸借契約が本来的に継続的関係である以上、極めて短期間の変動による危険負担は当然相互に負うべきものと考えられる。

   どの程度の期間を経過すればこの要件を充足するかは一概に言い難い。

   但し、最判平成3年11月19日(法務1314・27)は、現行の賃料が定められたときから一定の期間を経過しているか否かは、賃料が不相当となったか否かを判断する一つの事情に過ぎないとして、相当期間の経過は賃料増減請求の要件ではないと判示した。

 (2)上記期間中に経済変動のあること

   借地借家法第11条及び第32条に定める地代等・借賃増減事由は、既定の賃料がこれを定めた後に生じた経済事情によって均衡を失ったものと認められる場合を指すものと考えられ、法文列挙の事由はその典型的な具体的事例を例示的に拾い上げたものと解される。

   すなわち、賃料決定と相関関係に立つ一切の経済事情の変動は全て考慮されるべきである一方、賃料は当事者間の特殊事情によりその額の決定は個別的になされることが多いので、単に近隣の賃料と比較しての高低の一事をもって増減請求を行っても、それが一般的な経済事情の変動の表象と認められない限り、請求は認められないと解される。

   経済事情の変動とは、物価や国民所得の変動、土地の生産性の向上等が考えられる。

 (3)従来の賃料額が不相当となったこと

   既定の賃料が不相当になるとは、公租公課の増減、経済事情の変動又は近隣の賃料との比較により、従来の賃料をもって当事者を拘束することが、衡平の理念から不合理な程度に達することをいう。

   したがって、賃貸借契約当初より特殊の事情があり、賃料が近隣と比較して高くあるいは安く定められていても、その利害得失は当事者が是認しているのであるから、増減請求の対象にはならないと解される。

   また、公租公課の増減があっても、賃料自体が不相当とならなければ増減請求は認められない。

 (4)不増額特約のないこと

   本来衡平の観念に基づく事情変更の原則の精神を貫こうとするときは、かかる特約に拘束されること自体がおかしいのであって、かかる特約のあったこともその他の事情と共にこれを考慮に入れたうえ、既定賃料を改定する必要があるかないかを判定し、改定の必要ある場合には、その相当額を判定すべきものとする方が筋が通る。

   社会的弱者保護という立場から賃借人に有利な特約のみ認めようとしたものである。

 2.相当額の算定に当たって考慮すべき事項

改定されるべき賃料と密接な関係がある経済的特殊事情は全て含まれるのであって、借地借家法の列挙事由の外に以下の事項が挙げられる。

  イ.契約締結時若しくは賃料改定時の特殊事情

  ロ.期間の長短

  ハ.賃借人の賃貸借契約締結に当たっての費用負担

  ニ.権利金・敷金等の一時金の支払いの有無

  ホ.周辺環境の変化

【借地借家法抜粋】

 (地代等増減請求権)

第十一条  地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 (借賃増減請求権)

第三十二条  建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。